コロキアムにてふたり

  

「頭領に逆らっての反逆行為。」

となるのかな、百足の中に戻った哉無はみずからのあぎとを撫でて考えてみた。思い立ち、コロキアムに寄ってみる。いるだろうと思っていた「元」筆頭の姿を見つけてほくそ笑む。

「奇淋が出ていったぞ、飛影よ」哉無の高い声が反響した。

それがどうした、といった顔で飛影は振り返る。とはいえ初耳だったようではある。哉無は近づいてふうん、と飛影の顔色を検分した。相変わらず無表情だが、この無表情はこれでなかなか雄弁だ。

「これって頭領への反逆行為とならないか。どうなるか、トーナメントが終わったあとが見ものだねえ」

「ふん」

飛影は鼻を鳴らし、剣術の構えを取る。哉無にかかずりあう意思はない。哉無はそれにかまわず

「頭領に逆らっての反逆行為か。慣例で説明するか。これは、そうねえ。

今までそんなことがあった場合には何かしらの手打ちが下されていたかな。絶縁だ。これすなわち殺しだろ?さて、今回で言えば手打ちの対象は奇淋になるのか。奇淋はどうなるんだろうなあ、飛影よ」

「軍は解散した。」

うんざりとした口調で飛影は口を開く。

「奇淋はなにもされないだろう。処遇も何も関係ないはずだ」

哉無はその返答に顔をねじるように静かに下を向きながら、飛影にとってはかんに触る仕草で、優雅な笑い顔で答える。

「いや、そういうことじゃないんじゃないか?飛影、今夜頭領に聞いてみてくれないかね」

飛影は型の動きをおさめて哉無を一瞥する。

「俺が知らないことを教えてくれているのだろう?それとも、俺相手に鬱憤晴らしがしたいのか。手合わせしてくれるなら別だがな」

「とんでもない。鬼気迫ったあんたに殺されるのはごめん被りたいね。躯様もあたしまでいなくなったら困るだろ」

飛影の後ろ姿を眺めながら哉無は考える。「飛影は奇淋と同席していたことがほとんどないな」思い返して哉無は気づく。あの男のまなざしを見たことが一度もないのか。それなら関心を持たないのもしかたなかろう。気づかなくても、これから気づくことになるだろうか。