通信室にて

「軍を今日限りで解散する」

「お前、気に入ったぜ」

 

盗聴虫からの情報だ。

この宣言を知らされたのが通信室であったのは立場上やむを得ないことであったにせよ、ふたりのやりとりを通信機で聞いた奇淋の体はこわばった。

 

俺は筆頭を降りてから躯様と行動を共にしていない。

そして今回はこの役回りか。軍の解散宣言をまさか盗聴虫を介して聞くことになるとはな。

(いつから俺は覗き屋になってしまったのか)

奇淋は思った。俺が飛影に負けたからか。

苦々しい思いでいや、と思う。

そうではない。この流れはそれほど小さなものではない。

 

三竦みのもとにそれぞれ人間界からいわくつきの奴らが雇われ、風向きが変わった。そしてこのたびは幽助が仕掛けた。その様子を盗聴虫でうかがいながら新しい風に眼を細める躯の姿を思い描く。

緑の眼が子どものように光っただろう。

それを観るのが俺がここで勝ち得た役割だった。あの方のそばにいるのは俺であったはずだった。こいつらが来るまでは。

 

新しい風をまとったものが憎い。躯様は新しい風をお気に召されそれに乗った。こいつらの出現で今までの世界がこわれた。俺と躯様の世界が壊れた。

(自分が望んでいた役回りとはいえ、俺はいつも見つめさせられるだけか)

出歯亀である自分。

 

奇淋はこわばり、その岩のような体から憤怒の火がふいた。

唐突にかれはひとつの意志を固める。

とても馬鹿げた、奇淋にしてはとても馬鹿げた振る舞いである。