3.夕方

幽助は講義から戻った蛍子と喫茶店で待ち合わせた。彼は飛影の来訪をかくかくしかじかと話す。蛍子は気のない様子で黙っている。

「で、ちょっとあっちへ談合へしばらく」

「あらそう。気をつけてね」

あら、そう。それだけなの、幽助は少し力が抜ける。

まあ3年前も、似たようなもんだったけどよ。あのときは怒ってたけど、今、怒ってもない。

「いつ頃まで」とか聞かないのな。そう内心でひとりごち、コーヒーをブラックのまま啜る蛍子をみる。目の下に薄く隈が浮き出ているのに気づく。肌も少しぱさついているか。彼らのテーブルにだけ沈黙がひろがり、手持ちぶさたに幽助はハイライトに火をつけた。蛍子はさめた目つきでその手元を眺めている。

「ねえねえケイコサン、オレ、ここしばらく物足りなかったんだけどよ、もう煙草ひったくって殴らないのな」

頬杖をついていた蛍子は目線を幽助にあわせた。「何年前までの話?」少し苦笑いをみせる。そのままドアのほうへ視線を動かしてつぶやいた。

「もう子供じゃないんだから、あんたの領分に入ってどうのこうのは言わないわよ。」続けて言った。

「だから好きにしてきて。あんたが何を決めてきてもいいわ」

私はここにいて、私の生活を続けていくだけだから。

どっちにしたってなにか決まったら話しにはくるのは知ってるし、それで十分。

一昨日スペシャルのチャーシューごちそうになったお返し、とさっと伝票を持って蛍子はひとりで店を出ていった。

彼女の残したブラックコーヒーが目について仕方ない。あいつ疲れてるかな、少し。そういえば教育実習が近いとかな。大学の職員として残らないかとか、他大に進学しないかとか、それも日本じゃないようすで、いつもなんとなく聞き流していた彼女の最近のトピックを思い出してみる。「この世界」であいつは「優秀」な奴。進学とか就職とか引く手あまたらしいけど、全部ばらばら。

他人の思惑関係なしにしたら、あいつは教師になりたいって、その気持だけが残ると思うんだけど、疲れてるとにぶるね。さすがのケイコサンも。

オレの方は蛍子の話、聞いてないけど一応、覚えてるんだけどなあ。

追いかけたいようなめんどうなような重苦しさが邪魔くさく、ハイライトにもう一本火をつける。魔界に行く前に、やっときたかった。けど、いまのあいつじゃめんどくさいよな。すっきりしたところでなんかこう、いらいら、もやもやしそうだ。

ああそうだ、蔵馬にも会っとこう。あいつも呼ばれてんのかね、最近はあっちがらみの話題もしないからな。