時雨観察

古参の直属しかおらないと、躯様は子どものように振る舞われることがある。と時雨はみる。

ふだんの威厳をそっくり引っ込められるとああだ、

躯様が二人おられるようでそれが・・・

「たまらない」という言葉をようよう押さえた。

だから古参陣はよくわかっている。

躯に惹かれてここにとどまるなら、

これをいちばんの動機にしないこと。

かつての躯軍は強くなりたいやつらが

自然に集まってできただけのこと。

躯はあえて強い紐帯を作らずにいる。

それに気づいた用心深い男たちがやっと躯のそばにいられる。

頭領の尊大の裏にトリックのように隠されてる女、

というより少女の甘え。さらに言えば

子どもが肉をはむだらしのなさで、

我々に甘えを取り出されることもある、躯様。

アンファンテリブルをそのまま、

このこわくてきな容姿に残しておられるのだ。

なんといびつな・・・。

時雨はここで思考をとめる。

これ以上考えを進めない方が、よいのだ。

躯様の大人の風格がかもす尊大と、

獅子の子のような無邪気に

遠くからでも、翻弄されていたい。

この繰り返しに取り込まれていたいのだ。

 

だからどんなに苦しくても、奇淋は戻ってきたんだろう。

時雨は奇淋に尋ねる。多少の悪意と相棒格へのねぎらいを込めて。

「我慢できて、3月か」

再び兜に収めた奇淋は、どんな表情をしていることだろう。

すい、と目を細めて自室へ向かう躯の後ろ姿を追っていた。

時雨はつぶやく。

「3月しか、もたなかったんだな」

「それ以上は言わないでくれ」

気心の知れた同僚である。

だからこそあいまいにしておくことはたくさんある。

ここにいるために。

奇淋はこれを諦念とともに引き受けた。躯のそばに仕えるために。