奇淋サイド

「奇淋」
トーナメントが終わってちょうど60日、戻ってきた奇淋とどんなやりとりがあったか、飛影にすらわからぬ。
飛影はすでに躯の寝台に潜っても抹殺されない地位を保っている。それなのに、わからない、ということに飛影はいらだちをおぼえているが、この感情を出すのは本意ではない。
つとめて無関心をよそおって頭領躯と古参の出戻りの会話を聞いている。

「むくろさま」
躯様、とひざまずく。
奇淋の動作は、魔界の地殻変動以前と変わらぬ。
打倒躯を公言して躯にあい見えなかった失策をとったくせに変わらぬ。

・・・いやしかし、なにかが変わっているのかもしれぬ。
飛影に把握しようのないふたりのやりとりが、ここに継続されている。

「うん、ひさしぶりだ。久しぶりで、もう時間がとれるから、19路盤で打とう。」

頭のコンディションが整ったら訪ねてこい。俺はお前が来る頃までは務めに就く前の休暇を、とる。

と。
奇淋を目で捨てておいて、周りの下級部下に向かって笑って宣言した。
「俺がお前等に今後指示するものはすべて公務になる。
公務は縛られるぞ。
俺の軍としての最終通達、トーナメント上位、煙鬼から直接面倒言われた奴以外は、好きなようにしろ。」

で、散れ。

もはや呪符を解いた三竦みの一角は、恐ろしいいわくを持っているらしい、太古からの美女、でしかない。
古参戦士以外にとっては。

これも事実である。
トーナメント完了後、新しい妖怪もこの百足に編成される。それくらい制度の枝が張り巡らされる世界となった。

トーナメント以降、パトロール隊としての新編成の任務が百足を所有する躯に与えられている。